(このファイルは、このセット内の全てと同じく、シフトジス基本區劃だけを用ゐ、HTMLブラウザ用ユニコードタグを雜じえることによって打鍵してあります。(MS−DOSやWindows95・Windows98などの上でも檢索や修正などが出來るようにとの時代後れな配慮です。)) |
賴惟勤先生の文章で,著作集の該當分野に收められてゐないと思われるものの内,
以下の文を,打鍵しました.記号や行組みは,ここでは再現出來てゐません.
(理由は,著作集には、音韻學上の内・外について、これを少し難しくした類名の二論文が載るのですが、嘗て幾たびもしつこく兩論文の文中を往來して結局、私自身にとっては「これがまづ根柢に無いと何も分らない」からです。)
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中古の内・外 |
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《韻鏡》や《七音略》など,中古末の各韻
図には「内転・外転」が指定されている。しか
しその意味は捉えにくい。古来その解釈をめ
ぐって論議が絶えないが,今以て万人を肯か
せるような説は提出されていない。本稿もま
た,この古来の難問に対する一考察である
が,ただ標題を「内転・外転」とせず,単
に「内・外」としたわけは,韻図の転に限らず
に,一般に「内・外」なるものを論じようと
するからである。
韻図の内転・外転と並んで,古い資料とし
ては安然の《悉曇藏》に見える「内・外」が
ある。即ちその第5巻において,「表」氏の
声調を記して,「入声は徑止して,内もなく
外もない」というのがそれである。これを現
代粤語入声に照して考えると,つま
り,入声が内・外によって分れることがな
いということをいっているのだと推定され
る。現代広州方言では,その高入(短入)は
内転から来,その中入(長入)は外転から来
ている。まさにこれが,「入に内あり,外あ
り」の方言である。(以上の点は曽て私見を
<内転・外転について>《中國語學》19号と
して発表した。その後,《湖北方言調査報
告》を見ると,中国では早くからこのことに
気づかれ,方言の分類のワクとして内・外が
使われていることがわかった。)
また少数民族語の漢字借用音にも同様の事
実が見出される。一般に,洞台系の諸語では
主母音に長短の対立があるので,「長母音と
外」,「短母音と内」の関係が明らかにみとめら
れる。そして主母音の長短によって入声がわ
かれることは,Jui(Dioi),武鳴,佈依,景洪などの方言によっても知られる。
なおここで関聯してのべるならば,主母音
の長短は,韻母全体の長短にはならないので
ある。それは,韻母の中の韻尾にもまた長短
があり,これが主母音と長短あい逆になっ
て,韻母全体としては同じ長さになるからで
ある。ただし長い韻尾というもののあり得な
い入声韻尾では,主母音の長短がそのまま韻
母全体の長短になる。(入声にのみ長・短によ
る声調分化のある所以である。詳しくは曽
て<声調変化について>《日本中国学会報》
2号で論じた。また韻尾ゼロでは長母音のみ
が現われる。
再び《悉曇藏》によると,その第2巻にお
いて,「内外」は「大小」と並列されてい
る。この「大小」が何を意味するかは解釈の
余地があるが,一応,口のあけ方の大小,つ
まり母音の舌位の低・高と解釈できる。
一般に中国語は古今を通じて,a系の主母
音を持つ韻母と,それ以外の母音を持つ韻母
とに二大別できる。注音符号がその立場で現
代北京方言を表記していることは広く知られ
ている。これを中古末について考えてみて
も,次の如く,この分類法が成立することが
わかる。(14摂は中古末より更に降る時代の
ものと思われるが,いま便宜上これを借り用
いる)
韻尾→ |
| i | u | m | n | iŋ | ŋ |
---|---|---|---|---|---|---|---|
以外の系統 | 遇 | 止 | 流 | 深 | 臻 | 曽 | 通 |
系統 | 果 | 蟹 | 效 | 咸 | 山 | 梗 | 宕 |
次に韻母全体について考えると,《湖北方
言調査報告》や,《中国音韻学研究》(高本
漢著)訳注などに注目すべき記述がある。
いまそれを簡単にまとめると次表の如くに
なる。
主母音 | 韻尾 | |
---|---|---|
内転韻母 | 短・弱 | 長・強 |
外転韻母 | 長・強 | 短・弱 |
内外に伴う現象は以上には止まらない。その
若干を挙げると,まず中古歯上音の変化があ
る。中古歯上音は,いまの官話では,内転で
は ts, s の部位となり,外転では捲舌音とな
る(《湖北方言調査報告》による)。これは
内転の短弱な主母音が,歯上音の捲舌化を促
進しえなかったためであろう。
また内転には独立の2等韻はなく,外転に
はそれがある。これは古来有名な内外の定義
であり,且つ内外の実質を何も表わさない定
義でもある。思うに独立2等韻の頭子音は,
曽ては1等韻と同じく,舌音には舌頭,歯音に
は歯頭を持っていたに違いない。しかるに内
転の短弱な主母音は,独立2等韻などを形
成することなく;これに対し,外転の長強な
主母音は,韻母が頭子音を支配して,頭子音
を自己に都合よく,舌音は舌上化し,歯音は
歯上化したのだと考えられる。
また現代北京方言において,注音符号式に
書いて{ iən, iəŋ, uən, uəŋ, yən, yəŋ,}の
{ə}が実際の音声には極めて不完全にしか
現われないこと,また{iəu,uəi}の{ə
}
が 1 2 聲において同様であることは,やは
り内転の主母音の短弱を反映するものと解せ
られる。
以上から考えて,中古末の韻図の内転・外
転は,いずれにせよこれら韻図の基づく方言
の韻母の二大分類を示すものとしなければな
らない。
韻図の内外転で最も問題となるのは臻摂
(正しくは,後世、臻摂を形成する諸韻)を
外転とする点である。これは,これと平行す
る深摂(正しくは上に準ずる。以下も同じ)
を内転とするのと合わない所である。しか
し,韻図についてみても,臻・深両摂は完全
には平行しない。例えば歴史的には痕韻に平
行して,当然深摂1等の期待される覃韻が咸
摂系になっているなどがそれである。(臻・
山摂は中古韻尾 n,t ;深咸は m,p である。)
また切韻系韻書の韻目順を見ると,だいた
い au 系の韻の出るところまでは,切韻以
来,広韻に至るまで重大な食い違いはなく,
また平上去入の順が概ね相い配していて乱れ
ない。そしてこの部分には,中古の韻尾 uŋ,
uk; n, t, が残らず含まれる
ことは注目さるべ
きである。これに対して, au 系の韻のあと
は韻書による違いと,四声相配(正しくは
「平上去」と「入」との関係)の乱れとが目
立つのである。そしてこの部分には,中古の
韻尾ŋ,k; m,p とが変化の
過程を異
にしていだことを示すものと考えら
れる。さて,韻図時代において,すべて中古
韻尾が本来の面目を保っていたとは限らない
例えば弱化韻尾 〜 ,の存在などを想定する
ことは可能である。但し,韻図は極めて審音
的なものであるから,韻尾が弱化したからと
いって,相配関係を誤ったりはしなかったの
であろう。
ここにおいて,前述,臻摂の外転とは,即
ち中古韻尾 m,t が当時 〜 ,であったことを
意味するものと推断される。もちろん弱化韻
尾に対しては長強なa系主母音が最も適しい
とはいうものの,非a系主母音が長強になれ
なり道理はない。要するに韻母全体として型
が>であれば,これは外である。そして,
n, t がこうだからといって, m,p までもが
そうである必要がないことは上述のとおりで
ある。かくして中古末の韻図の内外転は,韻
母に関する類別であり,それは中古音そのま
まではない方言に基いて記されていると考え
るものである。 (1957. 12. 2.)
附記 以上は昨年10月26日の大会の発表をま
とめたものであるが,大会の発表も本稿も
意を盡
くさない点が多い。やや詳しくは
<中古中国語の内・外について>(《お茶の水女子大学人文科学紀要》に投稿予定)
について見られたい。
Typed in 199?.??.?? - 2008.05.29.
之
職
蒸:
支
錫
耕:
微
物
文:
脂
質
眞:
歌
月
元:
葉
談:
緝
侵:
幽
覺
冬:
侯
屋
東:
宵
藥:
魚
鐸
陽:
Typed in 2008.05.29 - 2008.05.31.