子ノ爲メニ敵ヲ討ツ
昔或所ニ一人ノ祖父ト其ノ子及孫ガ居リマシタ、
或日ノコト三人同ジ食卓デ御飯ヲ食ベマシタ、
其孫ハ大層行儀ガ惡クテ、
御飯ヲ食ベズニ、
御菜計リヲ食ベ、
菜汁ヲ食卓一杯ニ溢シ散ラシマスカラ、
オ祖父サンガ叱リマシタ、
ケレドモ孫ガ聽カナイモノデスカラ、
オ祖父サンガ怒リ出シテ、
一打リ打リマシタ、
處ガ子供ノ親ハ我子ノ打ラルヽヲ見テ、
不平デ堪ラズ、
理詰メシテ遣ロウト思ヒマシタガ、
其樣譯ニモ行カズ、
サリトテ其儘ニシテ置ケバ、
息子ハ只ダ打ラレ損ニナル譯、
處ガ吶嗟ノ間ニ一ツノ手段ヲ案ジ出シ、
自分デ自分ノ頭ヲ頗リニ打マシタ、
スルト親父ハ息子ガ自分デ自分ノ頭ヲ打クノヲ見テ、
不審ヲ起シ『
何事モナイノニ、
氣デモ狂ウタノカ、
何故其樣ニ自分デ自分ヲ打クノカ』
ト尋ネマシタラ『
貴方ガ私ノ子ヲ打ッタカラ、
私ハ貴方ノ子ヲ打ルノデス』
ト申シマシタ。
